Linux起動の仕組みを理解しよう[init/inittab編]

第10回 Linux起動の仕組みを理解しよう[init/inittab編]

カーネルが呼び出されてからログインプロンプトが表示されるまでの間に、一体どのような処理が行われているのか。これを理解するには、この部分の全般をつかさどるinitとその設定ファイルであるinittabがカギとなる。

 Linuxが起動するまでの流れや、起動に際して使用されるファイルについて知っておくことは有益でしょう。そこで、今回と次回の2回に分けて、Linuxの起動の仕組みを紹介します。説明の都合上、用語の説明が多少前後するところもありますがご了承ください。

Linux起動の流れ

 まず、Linuxが起動するまでの大まかな流れを概観しておきましょう。

 マシンの電源をオンにすると、BIOSが起動して制御をハードディスクのMBRなどに移管します。Linuxの場合、MBRに書き込まれているブートローダ(LILOやGRUB)を起動し、このブートローダからカーネルを呼び出すのが一般的です。今回、BIOSからカーネルの起動までには深入りしません。とにかく、何らかの方法でカーネルが動き出した後からを追うことにします。

 カーネルが起動された後の流れを挙げると、

といった処理が行われています。

デバイスなどの初期化

 これは、カーネルに組み込まれた、あるいはモジュールとしてロードしたデバイスドライバを使って行います。各種デバイスの中には、電源投入直後の動作が不定と決まっているものがあります。いずれにしても、実際に利用する方法に合うように設定を変えなければなりません。例えば、シリアルポートなら通信速度、画面ならば表示モードといった部分です。

initプログラムなどの起動

 Linux上のプログラムとして最初に実行されるのは、initプログラムです(編注)。initプロセスは、psコマンドで必ずPIDが「1」と表示されます。

$ ps ax
  PID TTY      STAT   TIME COMMAND
    1 ?        S      0:04 init
    2 ?        SW     0:00 [keventd]
(中略)
  493 ?        S      0:00 /sbin/dhcpcd -n eth0
  580 ?        S      0:00 syslogd -m 0
(中略)
  890 ?        S      0:00 crond
  954 ?        S      0:00 xfs -droppriv -daemon
 1103 tty2     S      0:00 /sbin/mingetty tty2
(中略)
21157 ?        S      0:00 smbd -D
21162 ?        S      0:01 nmbd -D
(中略)
32610 ?        S      0:00 /usr/sbin/sshd
32611 pts/0    S      0:00 -bash
32646 pts/0    R      0:00 ps ax
psコマンド実行例。initがPID 1として表示されているのが分かる

 Linux上で動くすべてのプログラムは、このinitプログラムから実行されます。ユーザーが実行するプログラムはシェルから実行されますが、そのシェルも元をたどればinitから実行されたプログラムです。そのため、親子関係になぞらえて「initはすべてのプロセスの親である」と表現したりします。

編注:厳密には、initの前にPID 0の「アイドルプロセス」が起動される。

コラム 「悪魔」ではない「デーモン」
 デーモンといっても、悪魔(demon)ではなく守護神(daemon)なので、本当は「ダイモン」と発音すべきなのでしょうが、慣例的にデーモンと発音するようです。

 initに続いて、キャッシュマネージャやスワップを制御するプログラム、ハードディスクへのデータ書き込みを制御するプログラムなどが実行されます。こうした、縁の下の力持ち的に各種のサービスを提供するプログラムを「デーモン」と呼びます。

initは何をしているのか?

 では、initがプログラムを実行する方法を見ていきましょう。

initの動作を定義するinittab

 initがどのような処理をしているのかは、/etc/inittabを見れば分かります。このファイルは、initが行うべき処理を定義しているもので、各種confファイルのようなものだと考えればよいでしょう。

 /etc/inittabの各行は、

id:runlevel:action:process

という書式になっています。各部の意味は次のとおりです。

id
 エントリの識別子。ユニークな文字列(1〜4文字)でなければならない。

runlevel
 ランレベルの指定で、1から6までの数字が使える。「2345」など、複数を同時に指定できる。省略するとデフォルトランレベルとなる。

action
 プロセスの起動あるいは終了時の動作。actionの内容は表を参照。

 
action
意味
  respawn processで指定したプロセスを起動し、終了したら再起動する
  wait processで指定したプロセスを起動し、終了を待つ
  once 指定したランレベルへの移行後に1度だけ実行
  initdefault デフォルトランレベルの指定
  sysinit ブート時に実行するプロセス
  powerfail UPSが電源切断を検出したときに実行するプロセス
  powerokwait UPSが電源オンを検出したときに実行するプロセス
  ctrlaltdel [Ctrl]+[Alt]+[Delete]キーが押された場合
  表 指定可能なactionの一部

process
 起動するプログラム。

 構文が分かると、/etc/inittabの各行の意味も理解できるでしょう。

# デフォルトランレベル(ランレベル3を指定)
id:3:initdefault:

# ブート時の処理(/etc/rc.d/rc.sysinitを実行)
si::sysinit:/etc/rc.d/rc.sysinit

# ランレベルごとの処理(各ランレベル用のrcスクリプトを実行し、その終了を待つ)
l0:0:wait:/etc/rc.d/rc 0
l1:1:wait:/etc/rc.d/rc 1
l2:2:wait:/etc/rc.d/rc 2
l3:3:wait:/etc/rc.d/rc 3
l4:4:wait:/etc/rc.d/rc 4
l5:5:wait:/etc/rc.d/rc 5
l6:6:wait:/etc/rc.d/rc 6

# 1度だけ実行される処理(/sbin/updateを実行)
ud::once:/sbin/update

# [Ctrl]+[Alt]+[Delete]キーを押したときの処理
ca::ctrlaltdel:/sbin/shutdown -t3 -r now

# 電源オフ時の処理
pf::powerfail:/sbin/shutdown -f -h +2 "Power Failure; System Shutting Down"

# 電源オン時の処理
pr:12345:powerokwait:/sbin/shutdown -c "Power Restored; Shutdown Cancelled"

# 端末制御(ランレベル2〜5で/sbin/mingettyを実行。終了されると再実行)
1:2345:respawn:/sbin/mingetty tty1
2:2345:respawn:/sbin/mingetty tty2
3:2345:respawn:/sbin/mingetty tty3
4:2345:respawn:/sbin/mingetty tty4
5:2345:respawn:/sbin/mingetty tty5
6:2345:respawn:/sbin/mingetty tty6

# ランレベル5時のログイン処理(/etc/X11/prefdmを実行。終了されると再実行)
x:5:respawn:/etc/X11/prefdm -nodaemon
/etc/inittabの例(環境やディストリビューションによって詳細は異なる)

 /etc/inittabには、initの実行から各種デーモンの起動を経て、ログインプロンプトが表示されるまでの処理が記述されているのが分かります。詳細は後述するとして、大まかな流れを挙げると、

といったことを行っています。

ブート時の処理

 Red Hat Linux 7.2では、ブート時に/etc/rc.d/rc.sysinitというスクリプトを実行するようになっています。/etc/inittabの、

# System initialization.
si::sysinit:/etc/rc.d/rc.sysinit

という行で定義されています。ざっとその内容を見ると、

といった処理が行われています(編注)。これらの処理を行った後、指定されたランレベルに対応したrcスクリプト群を実行して、ログインプロンプトを出すことになります。

編注:ほかにも多くの処理が行われている。詳しくは/etc/rc.d/rc.sysinitを参照。

起動後の仕事

 ブート完了後にinitが行うことは、親プロセスを持たなくなったプロセスと端末の制御があります。

 プロセスは自分自身が_exitシステムコールを実行し、親プロセスがwait系システムコールを実行することで初めて終了します。ところが、何かの拍子に親プロセスが止まってしまったりすると、_exitしたまま永遠にwaitを待つことになります。こうしたプロセスを探して、本来の親プロセスに代わってwait系システムコールを実行するわけです。

 端末制御は、/etc/inittabの記述に従って、各端末(仮想端末を含む)に標準入出力やエラー出力を割り当て、gettyと総称されるプログラムを起動します。このgetty(Red Hat Linux 7.2ではmingetty)がログインプロンプトを出し、ここでようやくユーザーがログインできるようになるわけです。

ランレベルによる動作状態の変更

 Windowsには、「ランレベル」に相当する概念がないので、ちょっと分かりにくいかもしれません。これは、Linuxがどんな状態で動作するのかを指定します。一般的には、

 
ランレベル
意味
 
0
システム停止処理中
 
1
シングルユーザーモード
 
2
マルチユーザーモード
 
3
マルチユーザーモード
 
4
マルチユーザーモード
 
5
マルチユーザーモード
 
6
リブート中

になります。マルチユーザーモードが複数あるのは、例えばグラフィカルログインとテキストログインを使い分けるためです。Red Hat Linux 7.2だと、

 
ランレベル
意味
 
0
システム停止処理中
 
1
シングルユーザーモード
 
2
NFSを使わないマルチユーザーモード
 
3
フルマルチユーザーモード
 
4
未使用
 
5
グラフィカルログイン
 
6
リブート中

になっています。

 これを設定しているのは、/etc/inittabの、

id:3:initdefault:

という行です。この場合、ランレベル3、フルマルチユーザーモードで動作することになります。「3」を「5」に置き換えると、ログイン画面がX Window Systemを使った画面になります。

 なお、ランレベル0と6は自動的に設定されるので、inittabのid行で指定してはいけません。うっかり「6」を指定したりすると、延々とリブートするハメになったりします。こうした場合は、起動時にカーネルパラメータとして「single」を渡してやればOKです。指定されているランモードに関係なく、シングルユーザーモードの状態で起動します。このときはネットワークも動いておらず、コンソールに直接プロンプトが出ます。そこで、すかさず/etc/inittabを編集して再起動すればいいわけです。

 また、ファイルシステムをumountせずにいきなりリセットしたりすると、場合によってはfsckでも修復し切れないエラーが生じます。このようなときは、自動的にシングルユーザーモードで起動します。

シングルユーザーモード

 シングルユーザーモードは、Windowsのセーフモードに相当すると考えていいでしょう。マルチユーザーモードでshutdownコマンドを実行してもシングルユーザーモードになります。このときは、/etc/rc1.d内のスクリプトが実行されます。起動時にカーネルパラメータとしてsingleを指定したりfsckなどでエラーが起きた場合、/etc/rc1.d内のスクリプトは実行されません。

 このモードは文字通り、1人のユーザーだけが使う状態です。デーモンやプロセスも最小限のものしか動いていないので、メンテナンスがやりやすくなっています。

 例えばハードディスクのバックアップを取るとき、ほかのユーザーが使っていたり、さまざまなデーモンが動いていると、いつデータを書き換えられるか分かりません。まさにバックアップを取っている最中のファイルを書き換えられると、ちょっと厄介なことになります。

 その点、シングルユーザーモードでは/(ルート)に割り当てたパーティションをマウントするだけでよいので、/usrや/homeを別パーティションにしておくと確実にバックアップが取れます。もちろん、/パーティション自身をバックアップするときも、シングルユーザーモードならばファイルが勝手に書き換わることが少ないので安心です。

 シングルユーザーモードではネットワーク関係の機能も止まっていますから、コンソールからの作業が前提となります。シリアルポートを経由して別の端末で操作することもできますが、それなりの設定が必要になります。設定についてはhttp://www.linux.or.jp/JF/JFdocs/kernel-docs-2.4/serial-console.txt.htmlなどを参照してください。

 シングルユーザーモードからログアウトすると、マルチユーザーモードに移行します。

マルチユーザーモード

 マルチユーザーモードは、ごく一般的な動作モードです。Red Hat Linux 7.2ならば、ランレベル3か5のいずれかでしょう。3ならばテキストベース、5ならX Window Systemベースのグラフィカルなログイン画面になります。

 どちらもネットワークなどが使えるようになり、さまざまなデーモンが動いています。普段使うのは、このモードになります。前述したように、ランレベルに応じたrcスクリプト(ランレベル3なら/etc/rc3.d以下、ランレベル5なら/etc/rc5.d以下)を実行した後、ようやくログインプロンプトが出てきます。