PPPマルチリンク(RFC1990)

 ISDNの複数のBチャネルを束ねてPPPの1つの論理チャネルとして使用するPPPマルチリンク・プロトコル(MP)は,RFC1990〔The PPP Multilink Protocol(MP)〕で規定されている。MPは,その他,X.25やフレーム・リレー,非同期回線などにも適用可能です。

(1)PPPマルチリンク・プロトコルの仕組み

 PPPマルチリンク・プロトコルの仕組みは,ソフトウェアだけで行うところに特徴があり,LAPB(Link Access Procedure-Balanced,平衡型リンク・アクセス手順)のMLP(Multi Link Procedure,マルチリンク手順「ISO IS7776」)を基にパケット処理を加えている。
 機能的には,複数の物理リンクを束ねて1つの論理リンク(Bundle,バンドル)とし,上位レイヤのデータを分割して伝送する(図21)。そのため,データ長としては1つの物理チャネルのMRU(Maximum Receive Unit,最大受信長)を超えて転送できる。パケット処理は,送信側で,各論理チャネルにフラグメント化したパケットを分配し,受信側で組み立てるという手順です。マルチリンク・フラグメントは,PPPフレームの中にカプセル化される。

PPPマルチリンク・プロトコル
図21 PPPマルチリンク・プロトコル

(2)フレーム構造

 1つのパケットを複数のフラグメントに分割し,リンクのフレームにカプセル化するが,その場合に,等サイズに分割することも,伝送速度に比例した割合で分割することもできる。PPPマルチリンク・プロトコルのフレーム構造は,図22のように,プロトコル値003Dhで,PPPマルチリンク・プロトコルのフラグメント・ヘッダおよびデータをカプセル化している。

PPPマルチリンク・プロトコルのフレーム構造
図22 PPPマルチリンク・プロトコルのフレーム構造

 フラグメント・ヘッダのB(Begin、開始)ビットは、最初のフラグメントで1,他では0です。一方,E(End,最終)ビットは,最後のフラグメントで1,他では0です。最初で最後の,つまり1個のマルチプロトコル・フラグメントの場合は,BビットもEビットも1となります。
 順序番号は,フラグメントの順序で1ずつ増加します。なお,バンドル設定後の最初のフラグメントの順序番号は0とするが,その後はリセットしない。また,このフィールドの幅はLCP設定オプションで指定できるが,デフォルトは24ビットとなっている。
 受信側での組み立ては,バンドル単位に行う。

(3)リンク設定

 LCPの設定ネゴシエーションは,バンドルに対して行うのではなく,各物理チャネルに対して行う。このため,リンク設定・終了パケットはバンドルに対しては使用できない。 LCPでは,PPPマルチリンクのために,図23のような3つの設定オプションが用意されている。

PPPマルチリンク・プロトコルLCP設定オプション
図23 PPPマルチリンク・プロトコルLCP設定オプション

 この中で,マルチリンクMRRU LCPオプションは,PPPマルチリンク・データの情報部の最大長であるMRRU(Max Receive Reconstructed Unit,最大受信再構成長)を指定し,同時に,PPPマルチリンク・プロトコルでデータを受信するかどうかを示す。このオプションは,バンドルに対応するすべてのリンクについて同じ値でなければならない。また,相手がMRRUオプション付きの設定要求パケットを送信し,こちらが設定確認パケットでネゴシエーションを行わなければ,PPPマルチリンクでの送信は不可能。こちらからは,設定否定パケットで要求する。
 マルチリンク短縮順序番号ヘッダ・フォーマット・オプションは,12ビットの順序番号で受信することを通知する。また,こちらから送信したいときには,設定否定パケットで行う。デフォルトは24ビット。
 エンド・ポイント識別オプションは,パケットの送信システムを識別するもので,識別値はクラスと,それによって分類されるアドレスから構成される。すでにバンドルかある場合,この識別値が一致すれば,その既存のバンドルを使用できるが,一致しなければ新しいバンドルを作ることになる。なお,セキュリティのためには認証プロトコルと併用すべきだが,認証と,この識別比較との組み合わせによる既存バンドルヘの追加の可否を,表2に示す。また,クラスとアドレスの内容を,表3に示す。

既存バンドルへの追加の可否
表2 既存バンドルへの追加の可否

エンド・ポイント識別オプションのクラスとアドレス
表3 エンド・ポイント識別オプションのクラスとアドレス

(4)フラグメント損失のチェック

 フラグメントが損失したかどうかのチェックは,図22に示した順序番号が1ずつ増加して,Eビットか1の最終フラグメントとなったかどうかによって行う。また,Eビットに1の最終フラグメントがこないうちに,Bビットに1の開始フラグメントがきた場合には,それまでのすべてのフラグメントは廃棄される。ただし,Bビットが1の新しい開始フラグメントは保持される。

(5)リンク終了

 リンクの終了は,個々に通常のLCP終了パケットで行う。したがって,1つのLCP終了パケットでバンドルすべてのリンクが終了するわけではない。



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