LANケーブルで電源供給するイーサネット給電

1本のUTP(非シールドより対線)ケーブルでデータ通信と電源供給を同時に実現する「イ ーサネット給電」の標準化が進められています。ネットワーク機器の電源ケーブルを省くことで,配線の煩雑さをなくしたり,機器の取り扱いや設置を容易にする狙いがあります。

 イーサネット給電は,IEEE802.3afが標準化作業を進めている新しい技術です。作業は当初の計画より遅れており,完了時期は2002年以降にずれ込む見込みです。
 IEEE802.3afは,UTPケーブルの利用を前提としています。UTPケーブルを使うイーサネットは,10BASE-T,100BASE-T2,100BASE-T4,100BASE-TX,1000BASE-Tの5方式があります。IEEE802.3afは,このうち10BASE-T,100BASE-TX,1000BASE-Tの3方式を対象に標準化を進めています。

給電側と端末の間で電気特性の情報を交換
 イーサネットで供給する電源は,電庄48ボルト程度,最大電流350ミリ〜450ミリ・アンペア程度の直流電源が想定されています。ケーブル長は最大100mとなる見込みです(図1)。どの心線に電流を流すかといった詳細は,まだ決まっていません。

IEEE802.3afの主な仕様
図1 IEEE802.3afの主な仕様

 電源供給の開始時は,給電機能を持つ装置が接続先の端末の回路素子をチェックすることで,送るべき電圧や電流を決める仕組みとなっています。このためIEEE802.3afでは,接続先の端末がイーサネット給電に対応するのか,対応する場合にどういった電気糠既を持つのかといった情報を確認する方法についても検討しています。
 さらに,給電機能を持つ装置が給電を開始した直後は,直流電流が安定するまで交流成分が含まれる過渡的な状況が発生します。この過渡的な状況で,電源を受ける端末が許容範囲を超えた電力を供給されると,端末が正常に動作しなくなる可能陛もあります。IEEE802.3afでは,こうした過渡的な状況を制御する方法についても検討しています。例えば,電源を受ける端末の規定電圧に達するまでは,給電機能を持つ装置側で電圧をゆっくりと上げていくといった方法です。
 ほかにも,給電機能を持つLANスイッチ同士の接続で不具合が生じないか,ストレート・ケーブルとクロス・ケーブルの利用を誤ったときに不具合は生じないかといった課題も残されています。電源を供給しない従来のイーサネットは,ケーブルの接続方法を誤っても通信上の不具合が生じるだけで済みます。しかし,電源を供給する場合,機器の物理的な損傷や火災などの事故,人的な被害が発生する可能性があります。このため,上記のような課題が慎重に検討されている状況です。

給電の対象はIP電話機や無線LAN基地局
 イーサネット給電は,ネットワーク機器から端末へ給電する形態を想定しています(図2)。給電を受ける端末は,IP電話機無線LANのアクセス・ポイント(基地局)が想定されています。供給できる電力の大きさから,パソコンのように消費電力の大きな端末は対象となりません。電源の取りにくい場所に設置する機器や,複数のケーブルをつなぐと使いにくくなる小型の機器が対象となります。

イーサネット給電の主な応用例
図2 イーサネット給電の主な応用例

 例えばIP電話機では,従来型の電話機が音声信号の転送と電源の供給を1本のケーブルで実現できていることから,UTPのほかに電源ケーブルをつなぐ点がデメリットとして認識されてきました。この2本のケーブルを1本のUTPケーブルに統合できれば,従来型の電話機と同じ使い勝手を実現できます。
 端末以外にも,ハブのようなネットワーク機器に電源を供給する利用形態も考えられます。この場合,ハブ側で電源ケーブルを省けるというメリットに加え,ハブ本体に搭載する電源機能も削減でき,低価格化や小型化を図れるメリットがあります。
 一方,電源を供給するネットワーク機器は,IP電話機などの端末を収容するLANスイッチになります。給電機能を持つハブ(給電用ハブ)を外付けする利用形態も考えられます。給電用ハブは,イーサネットのデータを通過させると同時に,下位側のポートに対して電源を供給する機能を持つ装置です。
 イーサネット給電に対応したIP電話機などを既存のLAN環境に導入する場合,新たに給電機能を持つLANスイッチに買い換えると,導入コストが膨れ上がります。そうした場合に,外付けの給電用ハブを利用します。

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