長距離化とVLANで実現する広域イーサーネット

これまでWANの世界では,WAN独特の技術を使ってネットワークを構築してきました。しかしここにきて,LANで主流となったイーサーネットがWANでも使われつつあります。今回は,LAN技術を基盤としたWANサービス「広域イーサネット・サービス」を解説します。

 イーサネットが普及する以前の初期のLAN環境では,基幹部分にWANの時分割多重方式を利用した独自方式の製品を導入するケースも多くありました。このようにWANとLANには,基盤となる技術で共通点も多くあります。しかし,イーサネットの普及で,LANの世界ではLAN独特の技術が多くを占めるようになりました。
 そして今度は「広域イーサネット・サービス」として,LANの技術がWANに進出し始めたのです。ただ,こうした動きは今回が初めてではありません。すでにWANとLANの共通の基盤技術となったにATMがあります。

WANへの進出は長距離化への対応から
 もともとATMは,高速なWANサービス向けに開発されたデータ伝送・交換技術です。 ATMで主流の伝送速度は155.56Mビット/秒。しかし,当時のWAN環境で利用するにはコストが高く,ユーザーも少数でした。このため,ATMはWANで普及するより先に,基幹LANで「ATM-LAN」として採用されました(図1)。しかし,イーサネットの高速化,低価格化により,ATMはLANでの活躍の場を失っていきます。そして現在では,WANの専用線サービスなどの技術として利用されています。

ATM(非同期転送モード)とイーサーネットの適用領域の推移
図1 ATM(非同期転送モード)とイーサーネットの適用領域の推移

 一方,高速化や低価格化でLAN技術の主流となったイーサネットは,新しくWANに進出し始めました。
 当初は同じ構内の二つのビル間を光ファイバで接続することから始まりましたが,10BASE-FLや100BASE-FXが標準化されると,イーサネットは基幹LANでも利用され始めました。しかし仕様上,伝送距離は1k〜2kmが限界で変わりありませんでした。そこでベンダー各社は,独自に長距離化に対応しました。ギガビット・イーサネットの標準化後も,ベンダー独自の長距離化技術が登場しました。
 さらに,最近のブロードバンド化の流れが,イーサネットのWAN進出への追い風となりました。LANで普及したイーサネットと同じユーザー・網インタフェースでサービスを提供できる,低コストな既存のLAN機器をそのまま使えるなど,さまざまな点が通信事業者に受け入れられ,アクセス回線を始めとしたWANでの採用が進んでいます。広域イーサネットもこうした背景から登場したのです。

VLANでユーザー間のセキユリテイを確保
 広域イーサネットの通信事業者網は,LANスイッチを使って構築してあります。広いエリアに構築した“LAN”環境に,ユーザーの各拠点をつなぐ構成です。ちなみに,最近ユーザーが急増しているIP-VPNサービスは,IP通信専用で,IPパケットをレイヤー3技術で転送します。一方,広域イーサネットでは,IPを含む様々なイーサネット上のプロトコルで通信できます。レイヤー2の「スイッチング」技術を利用し,MACフレームをやり取りします。
 広域イーサネットは,比較的低コストで高速なサービスを利用できるため,既存のWANサービスから切り替えるユーザーも増えています。
 異なるユーザーの“LAN”環境を分割し,VPNとして提供するために,広域イーサネットでは『バーチャルLAN(VLAN)技術を使うのが一般的です(図2)。WAN上でVLANを実現するには,ポートVLANか,ベンダー独自の「拡張VLAN」を使います。拡張VLANは,IEEE802.1Q準拠のタグ付きMACフレームに,さらにタグを付加することで,ユーザー環境におけるVLANと競合しないようにする技術です。

広域イーサーネットの・サービスの概要
図2 広域イーサーネットの・サービスの概要

EoMPLSの普及でMACフレームがWANを席巻
 多くのIP-VPNサービスでは,VPN技術として「MPLS」を採用しています。しかし,MPLSはプロトコルに依存するため「透過性」に欠けます。IP以外の通信をしたいという企業ユーザーのニーズに応えるためには,「透過性」を改善した標準が必要です。次世代MPLS標準技術の有力な候補が「EoMPLS」です。
 EoMPLSでは,イーサネットのMACフレームをMPLSで転送します。EoMPLSを使えば,IP-VPNサービスばかりでなく,広域イーサネット・サービスにも適用できます。このため通信事業者には,広域イーサネットとIP-VPNの各基幹ネットワークをEoMPLSで統合する動きも出ています。こうした動きが広がれば,MACフレームだけが,イーサネットの実体としてWAN上を占めることになります。

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