広域イーサネットの次世代技術EoMPLS

EoMPLS(Ethemet over MPLS)は,一部のIP-VPNサービスが採用しているMPLSの拡張版です。現在,IETFで標準化作業が進んでいます。 EoMPLSを使った通信サービスで拠点間をつなぐと,イーサネットのフレームを透過的に転送できます。

 EoMPLSのベースとなっているMPLSは,セキュリティや経路情報を含む20ビット長のラベルをIPパケットなどに追加してVPNを実現します。約100万(=2の20乗)ユーザーを識別できるため,通信事業者にとってMPLSは,拡張性の高いVPNサービスを実現する技術でした(図1)。しかし,ユーザーにとってMPLSは,透過性に欠ける技術です。LANで普及したイーサネットのフレームを透過的に扱えないからです。例えば,IP-VPNのように,使えるプロトコルがIPに限定されてしまいます。

WANサービスのVPN(仮想閉域網)構成のイメージ
図1 WANサービスのVPN(仮想閉域網)構成のイメージ

イーサネット・フレームをカプセル化
 EoMPLSは,MPLSのラベル・スイッチング技術を生かしながら,ユーザーの拠点問でイーサネットなどのMACフレームを透過的に転送できるようにする技術です。
 IP-VPNサービスでMPLSを使う場合,IPパケットにラベルを追加してカプセル化します。ラベルの追加や削除は,主にPEルーターで処理します。通信事業者の網内では,追加したラベル情報を参照することで閉域性を確保しながらIPパケットを高速に転送します。
 EoMPLSを使ったWANサービスでは,MACフレームにラベルを追加してカプセル化します。主にPEルーターでラベル情報を追加する点や,追加したラベル骨組を基にして通信事業者の網内を転送する点はMPLSと同じです。
 MACフレームをカプセル化するEoMPLSの場合,MACフレームに含まれる上位のプロトコルは何であっても構いません。例えば,IP, IPX,AppleTalkなど,イーサネッ卜上で転送できる任意のプロトコルを使って拠点間で通信できます。EoMPLSを使ったWANサービスでは,バーチャルLAN(VLAN)情報を含むタグ付きMACフレームであっても拠点問をそのまま転送できます。このため,拠点をまたがってVLANを構築することも可能です(図2)。

EoMPLS(Ethernet over MPLS)を使ったMACフレームの転送
図2 EoMPLS(Ethernet over MPLS)を使ったMACフレームの転送

標準化では二つの方式を検討中
 現在進められているEoMPLSの標準化作業では,Kompella草案とMartini草案の二つが作成されています。主な違いは,PEルーターで追加・削除するラベル情報をPEルーター間で輯送するための手順です。 Kompella草案では,BGP-4の拡張版であるBGP-MP(multiprotocol extensions for BGP-4)を使った手順を規定しています。Martini草案では,MPLSの標準仕様でも採用されているラベル情報の転送プロトコルLDP(label distribution protocol)をベースにした手順を規定しています。
 EoMPLSはまだ標準化の途上ですが,すでに米シスコ・システムズや米エクストリーム・ネットワークス,米リバーストーン・ネットワークスなどが対応製品を出荷しています。

通信事業者の網の統合手段としても有望
 EoMPLSは,広域イーサネット・サービ スでの採用が進みそうです。しかし広域イーサネットでは,すでにVLAN技術を使ってVPNを実現しています。EoMPLSの採用が進むかどうかは,このVLAN技術との比較評価で決まります。例えば,NTTコミュニケーションズの「e-VLAN」やKDD1の「Wide-Etherサービス」では,関東,中部,関西などを単位としたエリア内ではVLAN技術,各エリアをつなぐバックボーンではEoMPLSを使います。EoMPLSを組み合わせることで,VLANの最大4095個という設定数の制約を回避しています。
 さらにEoMPLSは,ラベル・スイッチング技術を使う点でMPLSと共通するため,通信事業者はIP-VPNと広域イーサネットの網設備を統合することも可能です。こうした可能性から,EoMPLSは次世代の広域イーサネットの基盤技術として有力な候補に挙げられます。

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